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何がおかしいのかも分からない。
カラシュの口元は僅かに歪み、皮肉めいた笑いが浮かんでいる。
「あはは…暴れてやったぞ。大暴れだ。……ざまぁみやがれ。」
しかし、重いなぁと心の中で呟く。
自分の体はこんなに重かっただろうか?今までそう感じた事なんて無かったのに。
倒しまくった魔物達の血が染み込んで重くなった……そんな訳でもないだろう。
もう飛ぶのは無理だという諦めは先程既にした。
せめて立っていたいのだが……どうにも足がガタガタと震え出しそうな程に覚束無い。
この体勢を崩したら、もう起き上がれないような気がする。
--くっ!--
不意に訪れた胸の激痛に、体のバランスが崩れる。
あっという間に虚しく膝をつき……肘をつき……少しでも起こそうと翼を支えにもがいた。
力を絞り出す様に上体を起こす。
が、均衡を保てない哀れな体は重心が後ろに傾いた途端、先程と逆方向、背中から倒れ込んだ。
情けない…。
そう呟こうとしたけれど、喉に声を発する程の力がこもらなかった。
淀んだ空が降り注ぐ様に視界に広がっている。
負の気が満ちる暗い空。
ユーチャを信じていなかった訳ではない。
彼ならきっと魔王を倒すに違いない。
カラシュは魔王の下では古参ではなかったが、それでも「人」の時間よりは長くを過ごした。
ユーチャ以外の「勇者」と名乗る人物を多少なりとも見てきた。
明らかに違うのだ。
ユーチャこそが魔王を倒すべく選ばれた勇者だと確信している。
ただ、自分の時間がほんの少し足りなかっただけだ。
彼が魔王を滅ぼす瞬間に立ち会うには、ほんの少し自分の命が足りなかった。
頑張ったんだけどな。
一応、頑張ったんだぜ、ユーチャさん。
俺、頑張ったんだ。
声も満足に出ないのに、目から溢れ出そうとする何かで視界が霞む。
カラシュの顔には、皮肉めいた笑いが浮かぶ。
ああ、せめてもの救いは……今ここにポッポちゃんが居ない事だ。
お願いします…この命と引き換えに彼女の呪が解けます様に。
シルバを失う悲しみが、彼女を覆う事のないように。
この姿が、薄汚い黒い翼に見えますように。
神様、お願いします……お願いします…………
突然ユーチャの足が止まる。
久々に見た窓。静かな瞳が遠くを眺める様に空を見つめた。
地下よりずっと暗がりに慣れてしまっていた目には、淀んだこの空さえ多少眩しい。
「………外が静かになった……。」
マニョが同じ様に空を眺めながら答える。
「何だかんだ言って、やっぱりカラシュは強いのよ。魔物達が騒げずに息を潜めたんだわ。」
一人で外の魔物を全滅させられる訳は無い。
マニョの考えが正しいのだろう。
カラシュの強さを前に、魔物達は息を潜め状況を見守る体勢なのだ。
「………心配だ……急ごう。」
「ま、待って。ユーチャ様!さっきからちょっと急ぎ過ぎだわ!」
走り始めようとしていたユーチャが振り返る。
「カラシュが押さえてくれたのだから、慌てないでも大丈夫よ!疲れて魔王に飛び込んでも不利なだけだわ!」
マニョの意見はもっともである。
が、それは知らないからなのだ。
「……カラシュはそう長くはもたない……いや、無理をさせてはダメなんだ。」
「なんで!」
「…死の契約がある……あいつが今まで無理をしてきた事…苦しそうにしていた事!少しも気付かなかったのか!?」
思わず声が荒くなり、ユーチャはハッとしたように口元を覆った。
マニョが目を見開いていた。
「……知らないわよ!!何よ!言ってくれなきゃ、分からない事だってあるじゃない!本人が隠そうとしていたら、尚更分からないわよ!!……だからって、薄情だとか、冷たいだとか、思われても…そんなの知らないわ!!」
「すまない、責めたわけじゃないんだ……。」
「……仲間なら気付いても当たり前?…笑わせないで!仲間なのに言ってもらえないって事の方が悲しい時だってあるわ!」
「マニョ、悪かった……だから……」
落ち着かせようとユーチャがマニョを引き寄せると、マニョがドンッと押し返した。
「もう、知らない知らない!!ユーチャ様なんて知らない!!行っちゃえ!とっとと走って魔王の所に行っちゃえ!!」
クルリと背を向け、マニョは魔法の詠唱を始める。
先程駆け上がってきた階段の奥底から、魔物の低い唸りが聞こえてくる。
「このムカつき、思いっきり暴れて解消してやるんだから!早く行ってよ!!」
ヒステリックに叫んだマニョの体を抱き寄せ、ユーチャが耳元で囁く。
「無理をするなよ……全てを終わらせてここへ迎えにくるから。」
マニョはコクリと頷いた。
俯いていた顔を上に起こされ、目蓋に優しい感触が降り注ぐ。
すぐに離れていったユーチャの唇から、優しい声がまた響いた。
「戻ってきた時は、機嫌直していつもの笑顔で迎えてくれよ。」
また触れてきたユーチャの唇を感じ、マニョがボッと赤くなった。
珍しいユーチャの悪戯っぽい笑顔を眺め、マニョは口元に手を当てた。
ペン・ギンを引き連れて遠ざかっていくユーチャの背を見つめ、ドキドキした心を持て余す。
………キスしちゃった……………。
一つ大きく深呼吸。
さてと………。
「呪文詠唱やり直し!!」
先程唱えはじめていた魔法は、既に跡形もなく霧散していた。
「チュー v なのクマ〜♪」
ペン・ギンがピョコピョコ駆けながら鼻歌まじりの上機嫌だ。
「なんだ、お前もして欲しいのか?」
走りながらユーチャが聞けば、即答が。
「いらんクマ!」
そりゃそうだ。こちらも御免蒙る。
「クルッポ!クルッポ〜!!」
ペン・ギンの頭の上でポッポがバタバタと何か必死な様子だ。
しかし、鳩の言葉は生憎と分からない。
「ポッポッポは死の契約の事が気になっているみたいなのクマ〜。」
………。
「ポッポッポ、死の契約って言うのはクマね〜、苦しくて死んじゃうものなのクマよ〜。」
「おい!馬鹿クマ!」
思わずユーチャが走ったままの勢いでどつく。
勢いで前につんのめるペン・ギンの頭から、ポッポがパタパタパタと飛び立ち、そのまま近くの窓から外に出た。
「ポッポ!!危ない!帰っておいで!!」
ユーチャの声も虚しく、ポッポは淀んだ空の下を羽ばたいていく。
遥か遠く小さくなっていくポッポをユーチャの横で眺めながら、ペン・ギンは耳をヒョコヒョコ動かす。
「ポッポッポは、カラシュが心配なのクマ〜。」
「…………呪でカラシュがシルバだと思っているから?」
ユーチャの言葉に首を傾げるペン・ギン。
「ポッポッポには何も呪なんてかけられてないクマよ。」
「そんな…カラシュが言っていたんだぞ。ポッポと自分には呪と言うか魔法がかけられていると…。」
「うんにゃクマ。ポッポッポには何も魔法的なものは無いクマ。カラシュは死の契約しか無いクマ。」
「………絶対?」
「疑うクマか?失敬クマね!ポッポッポには呪ないクマ!」
「…………分かった。」
「分かれば良いクマよ。」
「取り敢えず………『ポッ』が一つ多いからな。」
「………おっとうっかりなのクマ〜、テへクマ♪」
ユーチャはまた走り出す。
魔王を倒そう。
きっとその後に考えればいい。
一刻も早く、魔王を倒そう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
カラシュの口元は僅かに歪み、皮肉めいた笑いが浮かんでいる。
「あはは…暴れてやったぞ。大暴れだ。……ざまぁみやがれ。」
しかし、重いなぁと心の中で呟く。
自分の体はこんなに重かっただろうか?今までそう感じた事なんて無かったのに。
倒しまくった魔物達の血が染み込んで重くなった……そんな訳でもないだろう。
もう飛ぶのは無理だという諦めは先程既にした。
せめて立っていたいのだが……どうにも足がガタガタと震え出しそうな程に覚束無い。
この体勢を崩したら、もう起き上がれないような気がする。
--くっ!--
不意に訪れた胸の激痛に、体のバランスが崩れる。
あっという間に虚しく膝をつき……肘をつき……少しでも起こそうと翼を支えにもがいた。
力を絞り出す様に上体を起こす。
が、均衡を保てない哀れな体は重心が後ろに傾いた途端、先程と逆方向、背中から倒れ込んだ。
情けない…。
そう呟こうとしたけれど、喉に声を発する程の力がこもらなかった。
淀んだ空が降り注ぐ様に視界に広がっている。
負の気が満ちる暗い空。
ユーチャを信じていなかった訳ではない。
彼ならきっと魔王を倒すに違いない。
カラシュは魔王の下では古参ではなかったが、それでも「人」の時間よりは長くを過ごした。
ユーチャ以外の「勇者」と名乗る人物を多少なりとも見てきた。
明らかに違うのだ。
ユーチャこそが魔王を倒すべく選ばれた勇者だと確信している。
ただ、自分の時間がほんの少し足りなかっただけだ。
彼が魔王を滅ぼす瞬間に立ち会うには、ほんの少し自分の命が足りなかった。
頑張ったんだけどな。
一応、頑張ったんだぜ、ユーチャさん。
俺、頑張ったんだ。
声も満足に出ないのに、目から溢れ出そうとする何かで視界が霞む。
カラシュの顔には、皮肉めいた笑いが浮かぶ。
ああ、せめてもの救いは……今ここにポッポちゃんが居ない事だ。
お願いします…この命と引き換えに彼女の呪が解けます様に。
シルバを失う悲しみが、彼女を覆う事のないように。
この姿が、薄汚い黒い翼に見えますように。
神様、お願いします……お願いします…………
突然ユーチャの足が止まる。
久々に見た窓。静かな瞳が遠くを眺める様に空を見つめた。
地下よりずっと暗がりに慣れてしまっていた目には、淀んだこの空さえ多少眩しい。
「………外が静かになった……。」
マニョが同じ様に空を眺めながら答える。
「何だかんだ言って、やっぱりカラシュは強いのよ。魔物達が騒げずに息を潜めたんだわ。」
一人で外の魔物を全滅させられる訳は無い。
マニョの考えが正しいのだろう。
カラシュの強さを前に、魔物達は息を潜め状況を見守る体勢なのだ。
「………心配だ……急ごう。」
「ま、待って。ユーチャ様!さっきからちょっと急ぎ過ぎだわ!」
走り始めようとしていたユーチャが振り返る。
「カラシュが押さえてくれたのだから、慌てないでも大丈夫よ!疲れて魔王に飛び込んでも不利なだけだわ!」
マニョの意見はもっともである。
が、それは知らないからなのだ。
「……カラシュはそう長くはもたない……いや、無理をさせてはダメなんだ。」
「なんで!」
「…死の契約がある……あいつが今まで無理をしてきた事…苦しそうにしていた事!少しも気付かなかったのか!?」
思わず声が荒くなり、ユーチャはハッとしたように口元を覆った。
マニョが目を見開いていた。
「……知らないわよ!!何よ!言ってくれなきゃ、分からない事だってあるじゃない!本人が隠そうとしていたら、尚更分からないわよ!!……だからって、薄情だとか、冷たいだとか、思われても…そんなの知らないわ!!」
「すまない、責めたわけじゃないんだ……。」
「……仲間なら気付いても当たり前?…笑わせないで!仲間なのに言ってもらえないって事の方が悲しい時だってあるわ!」
「マニョ、悪かった……だから……」
落ち着かせようとユーチャがマニョを引き寄せると、マニョがドンッと押し返した。
「もう、知らない知らない!!ユーチャ様なんて知らない!!行っちゃえ!とっとと走って魔王の所に行っちゃえ!!」
クルリと背を向け、マニョは魔法の詠唱を始める。
先程駆け上がってきた階段の奥底から、魔物の低い唸りが聞こえてくる。
「このムカつき、思いっきり暴れて解消してやるんだから!早く行ってよ!!」
ヒステリックに叫んだマニョの体を抱き寄せ、ユーチャが耳元で囁く。
「無理をするなよ……全てを終わらせてここへ迎えにくるから。」
マニョはコクリと頷いた。
俯いていた顔を上に起こされ、目蓋に優しい感触が降り注ぐ。
すぐに離れていったユーチャの唇から、優しい声がまた響いた。
「戻ってきた時は、機嫌直していつもの笑顔で迎えてくれよ。」
また触れてきたユーチャの唇を感じ、マニョがボッと赤くなった。
珍しいユーチャの悪戯っぽい笑顔を眺め、マニョは口元に手を当てた。
ペン・ギンを引き連れて遠ざかっていくユーチャの背を見つめ、ドキドキした心を持て余す。
………キスしちゃった……………。
一つ大きく深呼吸。
さてと………。
「呪文詠唱やり直し!!」
先程唱えはじめていた魔法は、既に跡形もなく霧散していた。
「チュー v なのクマ〜♪」
ペン・ギンがピョコピョコ駆けながら鼻歌まじりの上機嫌だ。
「なんだ、お前もして欲しいのか?」
走りながらユーチャが聞けば、即答が。
「いらんクマ!」
そりゃそうだ。こちらも御免蒙る。
「クルッポ!クルッポ〜!!」
ペン・ギンの頭の上でポッポがバタバタと何か必死な様子だ。
しかし、鳩の言葉は生憎と分からない。
「ポッポッポは死の契約の事が気になっているみたいなのクマ〜。」
………。
「ポッポッポ、死の契約って言うのはクマね〜、苦しくて死んじゃうものなのクマよ〜。」
「おい!馬鹿クマ!」
思わずユーチャが走ったままの勢いでどつく。
勢いで前につんのめるペン・ギンの頭から、ポッポがパタパタパタと飛び立ち、そのまま近くの窓から外に出た。
「ポッポ!!危ない!帰っておいで!!」
ユーチャの声も虚しく、ポッポは淀んだ空の下を羽ばたいていく。
遥か遠く小さくなっていくポッポをユーチャの横で眺めながら、ペン・ギンは耳をヒョコヒョコ動かす。
「ポッポッポは、カラシュが心配なのクマ〜。」
「…………呪でカラシュがシルバだと思っているから?」
ユーチャの言葉に首を傾げるペン・ギン。
「ポッポッポには何も呪なんてかけられてないクマよ。」
「そんな…カラシュが言っていたんだぞ。ポッポと自分には呪と言うか魔法がかけられていると…。」
「うんにゃクマ。ポッポッポには何も魔法的なものは無いクマ。カラシュは死の契約しか無いクマ。」
「………絶対?」
「疑うクマか?失敬クマね!ポッポッポには呪ないクマ!」
「…………分かった。」
「分かれば良いクマよ。」
「取り敢えず………『ポッ』が一つ多いからな。」
「………おっとうっかりなのクマ〜、テへクマ♪」
ユーチャはまた走り出す。
魔王を倒そう。
きっとその後に考えればいい。
一刻も早く、魔王を倒そう。
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第12弾っちょ。
長い!
なんだかカラシュもユーチャも恥ずかしい人だ……。
長い!
なんだかカラシュもユーチャも恥ずかしい人だ……。
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