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心の赴くままに言葉を綴る、おかしな創作の空間
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相手は大空を駆け巡る翼を持つ鳥人だ。
ユーチャがいくら人として並ならぬ身体能力を持っていようと、機動力では敵わない。
走れど走れどその姿など見当たらない。

「………カラシュ!!どこ行った!?」

少し苛立を覚え大声で呼んでみる。
普段のユーチャを知る人なら少しばかり驚く光景だ。
いつもの彼は苛立など表に出さず爽やかな笑顔を崩さないのだから…。
一旦立ち止まって辺りの様子を窺うが、黒い翼は見当たらない。
どこまで行ったんだ!?
まさかこのまま仲間から外れるつもりか!?
…………………

「だー!!めんどうくせぇ!!!!」

ゴスッ!!っと近くの大木の幹を足裏で蹴り入れる。
ちょっとの衝撃ではビクともしなそうな大木が震える様な揺れを起こした。

ガサガサ……ドスン

舞落ちる木の葉や木の実と共に、黒い物が落ちてきた。

「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」

それがムクッと起き上がり、バサリと羽を動かそうとして、ガシッと肩を掴まれる。

「カ〜ラ〜シュ〜?」

尋常ならざる気配を感じ、カラシュは逆毛立つと同時に観念した。
逃げる気力を失ったと読み取り、ユーチャが手を離し溜め息を吐いた。
すぐに普段の彼が戻ってくる。

「何があったか知らない。でも、こういう事されると心配になるから……。」

いつもの落ち着いた声が優しく響く。
カラシュの瞳からまた溢れ出てくるものがあった。

「取り敢えず、そこに座れ。」

素直に従うカラシュの横にユーチャも腰掛けた。
話をするのはもう少し待とうと思った。
涙を止めようと必死になりながらもしゃくり上げるカラシュの様子を見る。
まあ、これだけ子供の様に泣いてしまっていては、男として皆の前から逃げ出すのも無理はない。
ポッポ達に見られたくはなかったのだろう。
翼がある分、普通の人より逃げ出す距離が遠かっただけか…。
暇つぶしにあれこれと頭の中で状況考察をし、手で先程の蹴りで落ちて来たらしい木の実を摘む。
3cmほどの固い木の実を掌で転がす。

「それ、食べれる。」

まだ少し鼻にかかった声でポツリとカラシュが言った。
掌の木の実を見つめてから「へ〜」と感心したような声を出す。

「固そうだけど、美味しいの?」
「殻を砕いて、中の部分を食べる……そのままでも美味いけど、煎って食べるともっと美味い。」
「じゃあ、集めてお土産にしようかな。さっきペン・ギンが草を貪っていたしなぁ……。」

別にひもじい旅などという苦労はさせていないはずなのだが…なぜあの道化者は……まったく……。

「………ごめんなさい。」

手に届く範囲の実を拾っていると小さな呟きが聞こえた。
ユーチャは苦笑する。
この鴉は子供のように素直なときがあって驚く。
敵として対峙していた時があったなど幻だったのではないかと思ってしまう。
マニョに聞いたところによると、カラシュは自分より遥かに歳を重ねていた。
確かに鳥人としては若いはずだ。鳥人の寿命は人のそれとはかけ離れている。
だからと言っても、やはり人生経験の年月を重ねている事には変わりはない。
それなのにこの様子である。
うなだれる様にしながら、でも窺う様に目だけ向けてくるその表情は、明らかに怒られないか怯えている子供だ。

「まあ、悪いと感じているなら良しとしよう。今後は気をつけてくれ。」

少しカラシュの表情に明るさが戻る。

「言いたくないことは言わなくてもいい。でも言いたいのに言えないことは話せばいい。愚痴でもなんでも。」

逃走されるよりはましである。
ユーチャの言葉に暫くカラシュはモゾモゾと何やら翼を落ち着かないとでも言う様に微妙に動かす。
やがてボソボソと話しはじめた。

「ただちょっと…怖かった。ポッポちゃんと俺の間には呪がかけられている。ポッポちゃんには俺が白い翼の鳥人に見える。かつての恋人だと思っているんだ。」
「シルバ?」

カラシュがコクンと頷く。

「そう。間接的に俺が殺した……そんな俺をポッポちゃんはシルバだと思い込んでいる。」
「呪が解けたときが怖いのか?」
「いや、違う。」

カラシュは左右に首を振り、苦笑した。

「シルバだと思い込んでいるポッポちゃんを残して……俺は死ぬ。」

ユーチャが顔を顰めた。

「俺はまた、ポッポちゃんに恋人を失う悲しみを与えてしまうんだ。」

不意に、無邪気に、ポッポがキスをしてきた時。
電撃が駆け抜けるかの様に、その事に気がついてしまった。
どうして、今まで思いもしなかったのかというくらい、当たり前のことに…。

「死ななければいいじゃないか。」

そういうユーチャに苦笑を返す。

「契約がある。」

先刻聞いたような言葉……ペン・ギンの顔が浮かぶ。

「………魔王の刻印?」
「知っているのか?そう…死の契約の証が魔王の刻印。刻印の様に浮かぶ痣だ。魔王に逆らうとそれが徐々に命を吸い取る。」
「左胸にその痣が?」

カラシュが頷き、ユーチャが呻いた。
時々見かけた左胸を押さえる仕草はこれか……。

「俺、本当はあんた達に着いてくるべきじゃなかったのかもしれない…。あの時、ポッポちゃんから離れるべきだった。」
「それでも恋人を失う悲しみは同じだろう。」
「目の前で死なれるのとは違うだろう?」
「じゃあ、お前はこのまま、また魔王の元に戻って許しを請うか?死を免れる為に。」
「…………ユーチャ………」

カラシュは目を見開いた。
背筋に悪寒が走る。
いつも見るユーチャの様子との違いに、カラシュはゴクリと唾を飲み込んだ。
これは……怒り?心の奥底から沸き立たせるかのような怒りの気だ。
スッと立ち上がったユーチャを見上げ、カラシュは息を飲んだ。
やけにゆっくりとユーチャの手が大剣を引き抜いた。

「また元の鞘に戻るというなら止めはしない。ただし………」

そこまで言った瞬間、ユーチャが大剣を振る。
あまりの速さに何が起きたか分からない。
カラシュは少し上体を仰け反らせて足下を見た。

「容赦はしない。」

ユーチャとカラシュの間の地面に、事切れた魔物が転がっていた。
真っ二つに別れたその魔物はそこまで下級レベルの魔物ではない。
勇者の強さを目の当たりにする。

「俺は、敵に回った者の事情まで考慮してやれるほど、器の大きい出来た人間じゃない。」

改めて見上げた先で、ユーチャは流れる様に大剣を収めた。

「魔王を倒せば、その痣は消えるんじゃないのか?」
「……多分………契約は無効となる………。」

ユーチャが手を差し伸べる。

「だったら、お前の命が尽きる前に、倒そう魔王を。」

恐る恐る手を乗せた。
ガッと引かれて立たされた。

「まずは魔王を倒そう。そうしたら、今度は呪を解いて、カラシュとしてポッポに幸せを与えろよ。」

ユーチャが笑った。

「カラシュ、お前泣き虫だなぁ。」

本当に自分は泣き虫だ。
苦しくても悲しくても悔しくても………嬉しくても泣けるんだ。


また恋人を失う悲しみを与えてしまうのが辛い。

その言葉に嘘はない。
でも、本当は他にもあった泣きたい感情。


カラシュとして、ポッポちゃんに愛されたい。
あの白い鳩の瞳に、黒い鴉として映りたい。


そんな悔しさも、この勇者に導かれれば無くす事が出来るかもしれない。
その為の苦しさだと思えば、左胸の痛みなど耐え抜いてみせよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第10弾………いつまで続くのか……。

ユーチャの沸点は急に来る。
怒らせてはいけない。

からすなぜなくの。
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