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「いいのか?」
そんな問いかけにユーチャは悩むこともなく答えた。
「ああ、構わない。」
彼はあっさりとこの世界を手放すつもりらしい。
「私の居場所は、この地にはもうない。
この地はやがて『勇者』の物語が語り継がれていくのだろう。」
魔王を倒した勇者。
人々に希望をもたらした勇者。
人は様々に、思い思いに、『彼』の物語を語っていくだろう。
「…けれど、それは本当の『私』ではない。」
人が夢見る伝説の勇者。
「その夢物語に、今の私は必要ない。」
きっぱりと言いきった顔は、再会した時のふぬけた顔よりはよほど良い。
やはりお前はあの『勇者』だと…嬉しさにも似た気持ちがわいてくる。
「必要ない、ね……確かに、人は見たくもないだろう。
こうして魔王と穏やかに会話するお前の姿などな。」
ニヤリと笑ってみせれば、ユーチャは爽やかな笑顔をかえしてくる。
「本当に未練はないな?そうそう戻れるものでもないんだぞ。」
念押しすると、ユーチャは振り返り、
その地を
その世界を
静かに眺めた。
それはほんの少しの間。
「『私』はもう必要ない。」
その顔に迷いは微塵も見当たらない。
「んじゃ、3人揃って行くのクマよーー!」
突如、緊張感の欠片もない声が木霊する。
本当に緊張感なくヘナチョコな動きでペン・ギンが空間を歪めた。
「ここ、入れクマ!」
ユーチャが暫しペン・ギンと空間の歪みを眺めてから視線をよこす。
「………少々……不安になってきたんだが……。」
無理もない言葉に、申し訳ない気持ちになる。
彼の肩に自分の腕を回し、低く呟いた。
「気持ちは分かるが……男に二言はないよな。」
グイッと腕に力を込め、促す。
後ろからドッカンと何か衝撃が来て勇者と魔王は空間の歪みに消えていった。
「さっさと行くのクマ!」
ウサ耳道化師が最後に飛び込むと、そこは元の静寂を取り戻す。
その後、勇者を見た者はいない
ただ『伝説』となって、勇者の物語は紡がれていく
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