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心の赴くままに言葉を綴る、おかしな創作の空間
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「あんたって、本当はシルバって名前なの?」

少し離れた場所でペン・ギンと遊ぶポッポを眺めていたカラシュに、マニョが暇つぶしとでもいう様に問いかけた。
一緒に旅を続けるようになってから暫く経つが、今更ながらに聞いてみたといったところか。
カラシュはちょっと溜め息を吐いてからボソリと答える。

「正真正銘、カラシュって名前ですがね。」
「でも、ポッポちゃんはシルバって呼ぶじゃない。」

あまり突っ込んで聞いて欲しくないという思いが沈黙を作る。
ユーチャがポンッと手を打ち、落ち着いた声で言った。

「偽名を使って騙そうと思ったら、懐かれ、情がわいたに1票。」
「なるほど!流石ユーチャ様〜んv それでそのまま訂正出来ずにいるヘタレということで、もう1票追加!」

バサッとマニョの頭を翼が叩いた。

「んなわけあるか!」

翼でツッコミを入れるところを見ると、一応「それなりに優しく」という配慮はしてくれているらしい。
さして痛くもない頭をマニョがわざとらしく手で触れる。
ちょっぴり無言で睨み合ってみた。

「…呪をかけられた。」

根負けしてカラシュがポツリと呟くと、マニョはちょっと驚いた表情を見せた。

「え、やだ〜。エンガチョ〜。」
「マニョ、残念。エンガチョでは呪は防げない。」
「ユーチャ様鋭ーいv いや〜ん、マニョ困っちゃ〜う!」

どうやら真剣に聞く気はないらしい。
ポッポと自分の関係など特に気にしないということなのだろう。
それはそれでありがたいとカラシュは安堵する。
あまり触れて欲しくないことの様に思うから。

「ところでカラシュ。」

相も変わらず落ち着いた声でユーチャが呼ぶ。
カラシュが顔を向けると、片手でグイッと胸ぐらが掴まれ引き寄せられた。

「顔色が悪い。」

ドキリとカラシュの心臓が跳ねる。
真剣な目がピタリと合わされていた。

「………ちょっと、疲れてるかも…心配ない……。」

そう伝えたが暫く返答がこなかった。
ようやく手が離されると言葉がかけられた。

「道案内だけでなく、偵察もしてもらったりしているから………少しゆっくり進もうか。」

ユーチャの言葉を聞きながらカラシュは無意識に左胸を押さえる。

「いや……そう悠長にしていい旅でもないだろう?大丈夫だ……急ごう。」

時間が惜しい。
死の契約は確実に力を増している。
この契約の証の下、心臓はいつまで耐え抜くのか……カラシュには見当もつかない。


「エンガチョで防げればいいのに………。」


呟きの声は自分以外には届かなかったらしい。



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ウサ耳の間に白鳩がちょこんと座る。
それを皆が注目しながら話し込む。

「つまり、ペン・ギンは負の力から守る結界みたいなものか。」

ユーチャが腕組みをしながら結論を出すと、ペン・ギンは不思議そうに首を傾げた。
頭の上でポッポがずり落ちそうになってバタバタと羽を動かす。

「本人に自覚がないのはまあ…あれだが…ペン・ギンの傍に居れば、この子は大丈夫なんだろう?」

落ちそうになるポッポに手を差し伸べながら、ユーチャはカラシュに目を向けた。
頷いてカラシュが肯定の言葉を発する。

「魔王は…意外とこういう嘘はつかない…多分そうなのだろうと思う…。」

「ふむ」とユーチャは納得の意を示し、今度はペン・ギンに目を向けた。
頭の上のポッポは相変わらず不思議そうな顔で状況が読めていないようだった。

「とりあえず、ペン・ギン。お前にその子を任せるからな。」
「ハイ!なのクマ。」

カラシュがジトッと道化師を見遣る。
信用ならないとでも言いたげだったが、どうしようもない。

「さて、あまりゆっくりしていると日が暮れてしまう。行こうか。」
「私、もう今日は野宿いや〜!」
「だったら早いところこの森を抜けてしまおう。次の町まではどれほどかは分からないが…。」
「クマがこの前、地図燃やしちゃったからいけないのよ!」
「え〜、クマ悪くないクマ〜。遊んでたら燃えたクマよ〜。」
「遊びで賢者級の火炎魔法を出さんでくれ……。」

勇者一行は旅の先を見据えて歩きはじめた。
カラシュは足が地面に貼り付いた様に動けない。
早く自分も魔王の元へ戻らなくてはいけない。
心無しか左胸にある死の契約の証が疼いた気がした。

「クルッポ〜」

鳴き声に俯いていた顔を上げた。
白鳩がこちらを見ていた。

「クルッポ〜」

もう一鳴きすると白鳩は可愛らしく羽ばたく。
トンッと地に足をつけた時には、色白の可愛らしい娘の姿に変わっていた。

「シルバ。」

………。
別れるのにはいい機会なのかもしれない。
そんな思いが頭を過った。
ただじっと可愛い赤い瞳を見返す事しか出来ないでいた。

「何をしている?」

気がつけば彼女の傍に勇者が佇む。
こちらを見ながらいつもと変わらない調子でその人は言った。

「早く来ないと置いて行くぞ、カラシュ。」

思わず目を見開いた。
カラシュは暫し言われた言葉を頭の中で反芻していた。
無意識に左胸を押さえた。

「♪早くしないと皆で楽しい野宿仲間〜♪クマ!」
「ちょっと縁起でもない歌やめてよね!」
「野宿楽しいクマよね〜♪カラシュも今日から野宿仲間クマよ〜♪」
「うるさいわよ馬鹿クマ!カラシュ!あんたこの辺詳しくないの?野宿じゃない手段教えなさいよ!」

いいのかな………。
いいのかな………俺、あんた達と一緒に行っても……
ポッポと一緒に行っても……

離れたくないんだ。
あの白い羽と共にありたい。

「カラシュ、早く!」

迷いも何もかも吹き飛ばす様なユーチャの声に、やっと足を動かした。

カラシュは数歩だけ歩くと、バサリと力強く羽ばたく。
低空で軽やかに進むと、パタパタと白い翼が横に並んだ。
横目で見遣ると、微笑む笑顔が見えた。

胸は少し痛いけれど、心は軽い。

「この森を北西に抜けると町がある!あんたらの足で…頑張って2時間!日の入りと競争だ!急げよ!」

マニョの「え〜〜〜!」と言う声と共に勇者一行は足早に旅路をまた進みはじめた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
眉間に皺を寄せながら男が辺りを見回す。
酷い有様だ。
この森はどんなに苦しんだのだろう?

「よくもまあ、私達の先回りをして荒らしていくわよね〜。」

ちょっぴり男に寄り添う様に近づきながら言った女。
森などろくに見ず、男をじっと見つめる。

「ユーチャ様は森を愛する優しいお方だから、とっても悲しいのね…いやん、素敵v」

クネクネとしなりを作りながら言う女に向き合うこともせず、ユーチャは答える。

「……いや違うよ、マニョ。森が無くなると私の今後の生活が危うい……。」

そう言ったユーチャの顔を、ピコピコと奇妙なウサ耳を揺らしながら覗き込むのは噂の道化師ペン・ギン。
ユーチャがペン・ギンのウサ耳に何気なく触れながら言葉を続けた。

「いつまでも『勇者』ではいられないだろう?魔王を倒したら『村人』に戻って、また木こり生活を送ろうかと思っているんだが……森が無くなっては収入源がないじゃないか。」

冷静な様子で言った発言は微妙に『勇者様』とはズレている。
暫く沈黙が続く。

「………いやーんv 将来設計バッチリなユーチャ様も素敵v」

明らかにツッコミ役が不足しているパーティだった……。
ふと、ペン・ギンの片耳が持ち上がる。

「おー、カラシュ来たクマ!」

空を見上げたペン・ギンにつられ、ユーチャとマニョも遠くに視線を送る。
確かに、あの黒い翼の鳥人はカラシュに違いない。

「……しまった。今日は適当なキラキラ物を用意していない。」
「あら、コインでも投げとけば?」
「勿体ないじゃないか、カラシュなんかにコイン投げたら。」
「そうね、流石ユーチャ様!カラシュ撃退ごときにコインなんて…その辺にガラス片でも落ちてないかしら?」

ユーチャとマニョがブツブツと作戦とも言えない会話をする。
そうこうしているうちに、カラシュはかなり近い距離まで来た。
羽を器用に羽ばたかせ、空中で止まった。
切羽詰まった様な、落ち着きのない声を響かせる。

「ペン・ギン!」
「お?何クマ?」

「ユーチャ様、光り物見当たらないわ。」
「……キラキラ光る魔法とかないの?」
「うーん………っていうか、たまには魔法で迎え撃てばいいのよね!」

閃いたとばかりにマニョが元気に言った後、そのまま呪文の詠唱に入る。
彼女の手に魔力の球体が現れた。

「そーれっ♪」

かけ声と共に投げつけた魔球は、速度を増すと共に巨大化していく。
空中で身を翻したカラシュは寸でのところでそれを避けた。

「………待て!待ってくれ!!」
「あーらダメよ!珍しく私の魔法、絶好調につき、止めてあーげない♪」

慌てた様子でカラシュが静止するも、マニョは次の魔球をかまえる。

「うふふ〜んv ユーチャ様!マニョの華麗な魔法を見ててね〜v」

投げキッスのあと、大きく振りかぶった。

「そ〜〜〜〜〜〜〜れ………………!?」

投げようとした瞬間、マニョは後頭部に衝撃を受ける。

「ちょっと黙れのクマチョップなのクマ!」

マニョの手の中の魔球はあっという間に霧散した。

「………な〜〜〜にをしてくれんのよ!馬鹿ペン!!」
「黙れ、色ボケ魔女なのクマ!」
「なんですって〜〜〜!?」

ペン・ギンは怒るマニョを無視して空を見上げる。
カラシュと目があった。

「なんですか〜?なのクマよ。」

ペン・ギンがニッコリと微笑む。
カラシュは躊躇っている様に沈黙する。

「クマのこと呼んだクマ。だから何クマ?って訊ねたクマ。続きをするクマ♪」

ペン・ギンの後ろにユーチャが来て、同じ様に見上げてきた。
二人に殺気がないことを確認して、カラシュは意を決した様に舞い降りてきた。
恐る恐る、両手で大切に抱えてきたものを二人に見える様に差し出した。
柔らかそうな白い羽毛の鳩がグッタリと目を瞑っていた。

「………助けてくれないか?」

ペン・ギンが鳩をじっと見る。

「白鳩の鳥人なんだ……でも、負の気にあてられて苦しんでいる。」

ペン・ギンが視線を上げカラシュを見た。
カラシュが少し身を小さくするかの様に肩を落として呟く。

「魔王が言った……あんたは強い正の気を持っていると……頼む、助けてくれないか?」
「何言ってんのよ!散々迷惑かけてきといて、虫が良過ぎない?」

マニョの言葉にカラシュが悲しそうな顔をする。
いつも尊大な黒鴉の鳥人が、今日はやけにしおらしい。

「分かってる、こんなこと頼めた義理じゃない……。だけどポッポは…この白鳩は何も罪はないんだ……だから。」

じっと聞いていたユーチャが、ペン・ギンに視線を送る。

「ペン・ギン。治せるのか?」
「‥‥‥。」

カラシュの祈る様な視線が注がれる。

「……知らんクマ!クマはそんな方法知らないクマよ?」

カラシュを睨んでいたマニョがギョッとする。
一瞬泣き出すかと思うほど、悲しみが浮かび上がっていた。
思わず「そんなに悲しまないでよ」と言ってしまいそうな表情だ。
ユーチャが気の毒そうに、優しい声音で声をかける。

「…あまり気を落とすな……何か方法を探そう。」

カラシュはプルプルと首を振る。
重い空気が漂う………が。

「クマチョーップ!!なのクマ!」

緊張感のない声と共に、弱々しい白鳩の体にペン・ギンのチョップが降り注いだ。

ぎゃーーーーーーーーー!!!

と悲鳴を発しそうなほど3名が驚き、そしてペン・ギンに「蹴り」「鉄拳」「平手」が飛ぶ。

「トドメを刺すな、馬鹿クマーーーーー!!」

珍しいユーチャの怒鳴り声と共に、ペン・ギンが泣きべそをかく。

「ひ、酷いクマーー。軽い冗談だったのクマ〜。クマ悪くないクマ〜〜。」


「‥‥‥‥‥まって‥‥‥確かに悪くない!!」

突如カラシュが慌てた声を出す。
そして……とうとう涙を流して言った。

「ポッポが………目を開けた!!」

カラシュの腕の中で、白鳩が不思議そうに赤い瞳で辺りを見回していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
報告もそこそこに自室を目指し足早に駆ける。
ついには駆けることすら面倒臭くなり、広い廊下であるのをいいことに翼をはためかせ軽く飛ぶ。
目指す部屋の前で降り立ち、懐から鍵を取り出した。
ガチャリと鍵を回し、戸を開けると同時に声を出す。

「ポッポ、ただいま。」

その声に愛らしい顔が振り向いてくれるはずだった。
しかしそれは見られず、部屋を眺めればベッドに期待していた彼女の姿を見つける。
ついうっかり眠り込んでいるのだろうか?
そう思い、そーっと覗き込んで息を飲んだ。

「ポッポ!?苦しいのか?ポッポ!?」

ぐったりとした様子に驚き、声をかけるが返事はない。
ほんの少しだけ薄く目を開き、赤い瞳がこちらを見た……が、またすぐに目蓋は閉じられた。
顔色が悪い……。
弱っている、それだけは嫌なくらいに理解出来た。
どうすれば治るんだろう?
俺は何をしてあげればいい?
そんな混乱する頭に声が響いた。

「もう限界が来たか?」

目を見開き振り返れば、戸口に佇む黒髪の男。
その圧倒的な存在感を負の気と共に纏い、ニヤリと笑ってみせた。

「魔王……あんた、何故ここに……。」

こんな部屋に用はないだろう?
今更ながらポッポを己の背と翼で隠す。

「チリチリと小さな正の気が目障りだ。俺もそろそろ我慢の限界だったが、それより先にそちらの方がくたばりそうだな。」

くたばる、その言葉を聞き、背筋に冷たいものが走る。
恐る恐る後ろに視線をやり、悲鳴をあげそうになった。
視界に小さな白い鳩が映る。
小さな小さな、ただの鳥……。

「体のコントロールも出来ないらしい。本当に限界だな。」

魔王が意地悪くクククと笑う。
鳥人は普段は人の形を為すが、鳥の姿にも変化することが出来る。
大抵は己の気をコントロールして姿を変える。
しかし弱り切ったりと気を乱した状態の場合は、意図しないところで変化を繰り返すことがある。
意識のない今、ポッポが変化したのはそれ以外の何ものでもない。

「ポッポ……。」

小さなその白い体を手で包み、引き寄せる。
どうすればいい?そうすれば助かる?

「なあ、魔王。あんた強大な力を持っているんだろう!?頼む、ポッポを助けてくれ!!」

殆ど鳴き声に近かった。

「頼む、なんでもするから!!なんでもするからー!」

縋る様に見つめた相手は、暫くじっと見下げてきたが、不意にその顔に呆れた様な表情を作り、不敵に笑った。

「なんでもするのは元からだろう?取引にならんな。」

魔王が自身の左胸をトントンと指で叩いてみせた。
カラシュの顔が歪む。
そうだ、自分はもとより死の契約に縛られた下僕なのだ。

「だいたい、賢い鴉が随分と取り乱しているようだが…その女を苦しめる負を生み出す源は俺だ。どうにかしろなど無理な話だな。」

不敵な笑顔はじっとカラシュを見つめる。
カラシュが若干魔王側によろめいた。
魔王が半歩ほどさがる。

「おっと、それを近づけるなよ。どうにも胸くそ悪い。まあ、俺に触れれば一気に消滅だがな。」

ビクリとしてカラシュが小さなポッポを腕で包み込み抱き寄せた。

「……親鳥か、お前は。」

フンと鼻で笑ってみせた魔王は腕を組み、やはり見下げてくる。

「…面白い情報をやろう。この世界で一番正の気が満ちている場所だ。負の気もすぐに浄化される、私の影響を撥ね除け続ける場所。いや、場所ではないな……人物……とも言いたくないが……」

カラシュの表情が変化する。
その言動の真意を見極めようと、カラシュは魔王の言動に集中した。
これだからコイツは面白い……魔王は内心でそう思いながら、次の言葉を発した。

「私の邪魔をする、あの勇者一行にあるもの。」

カラシュの目が細められた。
魔王の表情は実に面白そうだ。


「道化師ペン・ギン。」


カラシュの目が見開かれた。
バサリと翼が鳴る。
大きめな窓の戸が派手な音を立て開かれる。

淀んだ空に舞う漆黒の翼を、魔王は見送る様に眺めた。


「死の契約に逆らってみせるか?カラシュ。………何にしても楽しませて欲しいものだな。」

魔王はひどく退屈なのだ。





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ゆっくりと目が開いた。
真っ赤な瞳がじっと天井を見つめ、数回パチパチと瞬きをする。

カラシュは相変わらずじっとその様子を見つめていた。
まるで何か金縛りの暗示でもかけられた様に体が動かない。

そんなカラシュとは対照的にポッポはもぞもぞと動き上体を起こした。
白い可愛らしい羽を数回はためかせる。
まるで何処なのだろうと確認するように、首をひねりひねり部屋を見渡した。

部屋の隅の黒い瞳と、赤い瞳の視線がぶつかった。
動かせなかった体が衝撃を受けたかの様にビクッと震えた。
そんな様子をポッポがじっと見つめる。

そして、フワリと笑顔がこぼれた。
カラシュの目が見開かれる。

何故微笑む?

彼女の反応の理解に苦しむ。
以前はあんなに怯えた瞳を向けてきたのに……。
答えを見いだせない戸惑いの視線が彼女を見つめる。
その先で、より一層優しい笑みを浮かべ、柔らかな弾む声が紡がれた。

「シルバ、生きてた。シルバ!」

嬉しそうに言って身を乗り出したポッポがバランスを崩しベッドから落ちそうになる。
先程までの硬直が嘘の様に、地を蹴ったカラシュが一羽ばたきであっという間に彼女を支えた。
しっかりと縋り付きながら、ポッポが笑顔を向けてくる。
信じられないものを見る様な驚きと苦しみが混じった表情で見つめ返す。

「シルバ!シルバ!」

迷いのない声でカラシュを呼ぶ。
思い出された、白い羽の男。
彼女にはこの黒い羽が真っ白に見えるというのか!?
バサリッ、翼を高々と広げ上げる。

「あの野郎……これが………。」

これが魔法の正体。
「私はずっと一緒にいるよ」と、そう言ったあの男の放った最後の魔法。
急激に苛立ちがわいてくる。
グッと歯を噛み締め、もういない男への怒りを露にして空を睨む。
不安げな瞳が見上げてきた。

「シルバ?シルバ、痛い?どこか痛い?苦しい?」

視線をまた下げる。
赤い瞳が少し潤んでいる様に見えた。

違う!俺は、あんな白い男じゃない!!

そう怒鳴ろうとしたが声は出なかった。
「シルバ、シルバ!」と必死に縋る様子に声が出なかった。


きっとこれも魔法だ。
彼女には俺が白く見えて…
俺には彼女が…


きっとこれは魔法なんだろう?


優しく愛おしそうに白い髪を撫でた。
ぎこちない笑みが口元に浮かぶ。

「何も心配いらないよ……ポッポ……俺はここにいるから……」

また彼女に笑みが戻る。


これはきっと魔法なんだ。

彼女の笑みが、こんなに…愛おしい……




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(C) 君が見ていた夢物語 / 総八
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