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心の赴くままに言葉を綴る、おかしな創作の空間
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あれから数日……
女は意識が戻らない。
自分のベッドの上で静かに眠る女の様子を、部屋の隅に置いた椅子からじっと眺めていた。
我ながらよく飽きないものだと思いながらも、ただ見つめ続ける。
魔王から新たな命令があれば動くつもりではあるが、ここ数日は何事もなく過ぎていた。


あの日、城に戻り、女を自室に運んだ後に魔王の元に報告に行った。


「森はお望みどおり負に染めて来た。」
「……そうか。」

気のない返事を返してくる魔王を観察する様に眺める。
人々が思い描くほど、魔王は禍々しい容姿をしていない。
むしろ人の間にあれば、目を奪われる美しい容姿だと思う。
しかし気を許せば、全てを喰らい尽くす様に牙を剥く魔物の中の王だということを、カラシュは十分承知している。
無意識に自身の左胸を手で押さえた。
そこにはこの魔王の恐ろしい牙を記憶した『死の契約』が刻まれている。
この胸より呪われた文様が消えない限り、カラシュは魔王の下僕としてしか生きる術はない。
契約主である魔王に逆らえば、この呪がカラシュの体を蝕み喰い尽くしていくのだ。

「逆らいたくでもなったか?」

黙って佇むカラシュの様子を見て、魔王が冷笑とともに問いかけた。
いや、と答えてからカラシュは話題を変える様に魔王に訊ねる。

「あの森で……鳥人を見かけた……。」

魔王は少しの間を置いて答える。

「鳩だな。…あの森は平和の象徴と言われていた。白い鳩が羽ばたく平和な森だと。」


「だから目障りだった。」


残忍な笑みが魔王の顔に浮かんでいた。



魔王は知っていたのだ。
あの森には、種は違えどカラシュと同じ鳥人が住むのだと。
そしてわざわざ他の部下にではなくカラシュに命令を下した。

悪趣味な……

もしかしたら、ここにその『鳩』を連れ帰って来ていることに気がついているのかもしれない。
いや、気がついているだろう。
『負』の頂点に立つ者は、『正』の気に敏感に違いない。
魔物側に組してさほど時を経ていないカラシュにでさえ、この『鳩』の『正』の気を感じ取ることが出来る。
そして、この場の『負』の気がその『正』の気を包み苦しめていることも…。

「このまま、ここに寝かしていても回復はしないかもしれない……。」

ポツリと頭に浮かんだ考えを呟いてみる。
魔物の拠点など、悪影響以外何もないだろう。
けれど他に何処に連れて行けというのか?

このまま……
この静かな眠りの姿のまま、息をしなくなってしまうかもしれない……

ゾクリッと背筋に冷たい感覚が走り抜ける。
その時……

白い体が僅かに動いた。
カラシュは知らず、息を飲んでそれを見つめた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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白衣の二人。

立っていることすら、もう辛いのだろう。
白い翼を苦しげに揺らし、男の鳥人が地に膝を着けながらも必死に体勢を維持しようと足掻いている。
その傍らには女の鳥人。
顔色悪く、それでも必死に傍らの男に声をかけていた。

「シルバ、シルバ、しっかり、シルバ。」

答える様に、男の翼が数回だけ少し大きめに羽ばたかれる。

そのとき、まるでその弱った羽ばたきを嘲笑うかのように、上空から力強く風を切る羽音が響いた。
バサリ と、漆黒の翼が舞い降りる。

「何をしている?」

着地と同時に響いた問いかけは、この場のこの状況には不釣り合いな問いかけだった。
自分で問いかけておいて妙に可笑しく思えた黒き翼の主・カラシュは口元を歪めながら二人を見遣る。
見れば分かる、負の気に包まれ苦しんでいるのだ。

スタスタと地を歩き、二人の目の前まで近づく。
赤い瞳が4つ向けられる。
一対はしっかりとカラシュを捉えている。
もう一対は………見ているのだろう。だがその焦点は定まらない。

「視力を失ったか…?」

そう言って身を屈め、男の鳥人の眼前にぐっと自分の顔を近づけた。
しかしその瞳は、ただ虚しく開かれているだけの様子だ。
顔を背け横に視線を変える。
今度はしっかりとこちらを見る瞳にぶつかる。
顔色が悪いね…。
そして明らかに怯えた様子。

「他の種を見るのは初めてかい?」

口元に歪めた笑いを作りながら問いかければ、ただ震えて助けを求める様に傍らの男に寄り添うのみだ。
じっと眺めたが、いっこうに他の反応をしめさない様子に気分がしらけていくのを感じた。
同じ鳥人を見つけた好奇心で降り立ってみたが……もうどうでもいい。

「せいぜい足掻きな。」

そう告げて身を翻そうとしたとき、グッと翼の先を掴まれた。
その行為にむっとしてもう一度振り返れば、探る様に手を伸ばす男の様子。

「……鳥人…なのか!?」
「ああ、そうだが。」

面倒臭そうに答えてやれば、男の手はまたカラシュの翼に行き当たり、確認するかの様に触れてくる。
バサリと翼を動かし、羽先で男の手を払うかの様に叩く。

「…鳥人なら………お願いだ、ポッポを……この娘を安全なところに!」

スッと目を細めて見る。
どうやら本当に面倒臭い状況になりそうだ。

「頼むのはこの女だけでいいのかい?…あんたはどうする。」

男の顔が歪んだ。

「この娘だけでいい………私は、もう無理だ……。」
「フン!確かにな。」
「頼む、この娘はまだ助かる……お願いだ……。」
「見たところ、お前達はつがいの様だが……同じ鳥人ってだけで俺に大事な女を託すのか?」
「………つがいに……なる予定だった……約束していた……だが、もう……。」

カラシュは首を捻る。
これは本当に面倒臭い状況になってきたのではないだろうか?
男の傍らで怯える女を見た。
震える彼女の髪を優しく男が触れた。

「ポッポ、あの人に森の外へ連れて行ってもらえるよ…。」
「いや、いや!ポッポはシルバと一緒!ずっと一緒にいるの!」

……本当に面倒臭い状況だ。

「健気なことじゃないか。最後の時までご一緒してやればどうだい?」

カラシュのそっけない言葉に男の顔が歪む。
ぐっと手を握りしめる。
そして……

「ああ、ポッポ………私はずっと一緒にいるよ………!」

男の手が一瞬だけ光を帯びたかと思うと女の体に触れた。
女の意識がフッと途切れてその場に倒れ込む。
何事かとそちらに気を取られた隙に、今度はカラシュにその手が伸びる。
寸でで避け損ねたカラシュの翼に男の手が触れ一瞬だけ輝いた。
カラシュの顔に殺気が走る。

「貴様!!何か魔法を!!」

投げつけた怒鳴り声を受け止める相手は既に地に伏せ………事切れていた……。
最後の、本当に最後の力を振り絞った魔法の発動。

「くそぉ!!」

何をされたのか分からない……恐らく、気を失った女と対の魔法。
解除するにもこの女が必要になるかもしれない。
油断した!
死に損ないの弱々しい奴だと油断した!!
歯ぎしりをしそうなほどに苦々しく噛み締め、カラシュは地に伏せる女を抱き上げた。
フワリと軽く腕の中に収まる女を見遣り、舌打ちをする。

面倒なことになった……実に面倒だ……

そう思いながら、カラシュは力強く上空へ舞い上がった。
存外優しく女を抱いて…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  羽ばたく度に、黒の色が増しているのではないか。
  そんな錯覚にすら陥る気がした。

  一つ羽ばたく、一つ罪が生まれる
  一つ羽ばたく、一つ罪が重なる

  そうしていつか真っ黒な色は、この体内から溢れ出て
  全てを闇に包むのだろう


フワリと舞い降り、大きな木の一枝に腰をかけた。
カラシュは真っ黒い翼を一旦畳むと、幼い子のように足を交互にブラブラと揺らしつつ眼下を見下ろす。
もう見渡せる範囲内には、鮮やかな緑は消え失せていた。
輝く生気を失った森は、どす黒い色と灰味を帯びた枯れ色しか見当たらない。
自分が一時の休息を得ているこの大きな木さえ、少し重みと力を加えてしまえば簡単に朽ち果ててしまうのだろう。
不思議と軽い鳥人特有の体重でさえ、もう支えるのが精一杯だとばかりに不安げに揺れている。

「そうしてまた醜い黒鴉は、綺麗な森を自分と同じ色に染め上げましたとさ。」

おとぎ話めいた言葉を紡ぎ、クククと喉の奥で笑いを漏らす。
呆気ないものだ。
そう、自分が住んでいた森も魔王の前に呆気なく朽ち果てた。
今度は自分が魔王より得た力で一つの森を朽ち果てさせる。

「呆気ないね、本当に!」

言うと同時にバサリと音がする。
大人しく畳んでいた翼が天に向かって広がった。
風を掴んで一羽ばたき。
その途端、枝が悲鳴を上げ無惨に落ちていく。
既に支えるものを翼と風とに乗り換えていたカラシュは、ゆっくりそれを見遣る。

「?」

その視界に、何か動くものが捉えられた。
落下する枝ではない何か。
人間のそれより遥かに性能の良い鋭い目が、そのものを捉えようと若干細められた。

「人……?」

捉えたものを自分で確認する様に呟く。
そうか、哀れな人間がたまたまこの森にいらっしゃったのか。
森を枯らす大きな負の気の中で、直にくたばっちまうだろうさ。

どうでもいいことだと判断し、飛び去ろうと変えた視線の端で何か違和感を覚える。
あの人の背で白くはためく物体はなんだ………!?
慌てて視線を戻す。
見開いた目がそのものを再度捉えた。

白い衣の人が二人
その背にはためく白い……翼……!

「鳥人か…!!」

驚きの声がカラシュの口より漏れ出た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ポッポの上手な手懐け方
※クリックで拡大

カラシュ「まあ、俺なんて所詮そんなもんだよね…(T_T) 」

大好物:豆
ポッポの脳内: 豆>>>>>>>カラシュ>>>その他

ユーチャはただ単にクロピーで遊びたかったんだと思う。
シロピーに気があるわけではない。
隠れ腹黒勇者、のんびり世界でたまに刺激が欲しい。


「いいのか?」

 そんな問いかけにユーチャは悩むこともなく答えた。

「ああ、構わない。」

 彼はあっさりとこの世界を手放すつもりらしい。

「私の居場所は、この地にはもうない。
 この地はやがて『勇者』の物語が語り継がれていくのだろう。」

 魔王を倒した勇者。
 人々に希望をもたらした勇者。

 人は様々に、思い思いに、『彼』の物語を語っていくだろう。

「…けれど、それは本当の『私』ではない。」

 人が夢見る伝説の勇者。

「その夢物語に、今の私は必要ない。」

 きっぱりと言いきった顔は、再会した時のふぬけた顔よりはよほど良い。
 やはりお前はあの『勇者』だと…嬉しさにも似た気持ちがわいてくる。

「必要ない、ね……確かに、人は見たくもないだろう。
 こうして魔王と穏やかに会話するお前の姿などな。」

 ニヤリと笑ってみせれば、ユーチャは爽やかな笑顔をかえしてくる。

「本当に未練はないな?そうそう戻れるものでもないんだぞ。」

 念押しすると、ユーチャは振り返り、
 その地を
 その世界を
 静かに眺めた。

 それはほんの少しの間。

「『私』はもう必要ない。」

 その顔に迷いは微塵も見当たらない。

「んじゃ、3人揃って行くのクマよーー!」

 突如、緊張感の欠片もない声が木霊する。
 本当に緊張感なくヘナチョコな動きでペン・ギンが空間を歪めた。

「ここ、入れクマ!」

 ユーチャが暫しペン・ギンと空間の歪みを眺めてから視線をよこす。

「………少々……不安になってきたんだが……。」

 無理もない言葉に、申し訳ない気持ちになる。
 彼の肩に自分の腕を回し、低く呟いた。

「気持ちは分かるが……男に二言はないよな。」

 グイッと腕に力を込め、促す。
 後ろからドッカンと何か衝撃が来て勇者と魔王は空間の歪みに消えていった。

「さっさと行くのクマ!」

 ウサ耳道化師が最後に飛び込むと、そこは元の静寂を取り戻す。


 その後、勇者を見た者はいない

 ただ『伝説』となって、勇者の物語は紡がれていく
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(C) 君が見ていた夢物語 / 総八
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